本でみるグラフィック社小史
1963年の創業以来、グラフィック社は時代の新しい要請や読者のニッチな関心に応える個性的な本を読者にお届けしてきました。製版会社として出発した弊社は1964年に出版部門を設置し、最初のタイトルとなる日向数夫『レタリング字典』(1966)を刊行。60年代後半から70年代初頭にかけてデザイン関連の資料集を刊行し出版社としての基礎を固めた後、アート、デザインの技法書や趣味・実用書を中心に次第にジャンルの幅を広げていきます。また、早くから国際的なマーケットに注目し、翻訳出版のみならず海外版権販売にも積極的に取り組んで参りました。インターネットの登場により情報コミュニケーションが大きく変化した2000年代以降は、個性的なテーマと紙メディアの特性を活かした本作りを続けています。以下では、グラフィック社の各時代を特徴づけるような書籍をとりあげ、その歩みを紹介していきます。
1:創業の基礎となった文字・レタリングの本
グラフィック社最初の出版物である『レタリング字典』は、明朝体・ゴシック体のみならず古典的な書の書体や江戸文字、アルファベットまで網羅する総合字典です。レタリングとは看板や見出しを手書きで書く技術で、フォントのない時代においてはデザイナーの必須の技能でした。同書は、まさにこういう本が欲しかったというデザイナーの需要に応えるもので、高額にもかかわらずロングセラーとなりました。
増補 レタリング字典
1967年
その後も弊社は文字デザインについてのタイトルを多数刊行。なかでも、桑山弥三郎『レタリングデザイン』(1969)は文字デザインの入門書として長く版を重ねました。
レタリングデザイン
1969年
2:デザインの資料集・理論書
1960年代、70年代はデザインや広告というジャンルが社会的に人気となり、デザインの資料集や入門書が強く求められる時代でした。グラフィック社は膨大な事例をまとめたビジュアル資料集を他社に先駆けて刊行し、ひとつのジャンルとして成長させました。とくにシンボルマーク、ロゴタイプについてのタイトルは80年代のCI(コーポレートアイデンティティ)ブームに大きな影響を与えました。
日本のトレードマークとロゴタイプ :資料集
1973年
資料マーク シンボル ロゴタイプ 1973→75
1977年
世界のトレードマークとロゴタイプ
1983年
また、欧米のグラフィックデザインの重要文献もいちはやく日本に紹介しています。これらはいずれも世界のデザイン界において古典書として高く評価されているものです。デザイン関連の入門書では、カラーチップを読者が自ら貼り付けることで学習、完成させるものなど独自の工夫をしたものが、ロングセラーとなりました。
グラフィックデザイン・マニュアル 理論と演習
1968年
視覚言語 :絵画・写真・広告デザインへの手引
1973年
色彩と配色 :あなたが作る色彩の本
1974年
3:業界団体の年鑑
グラフィック社は1964年に結成された日本レタリングデザイナー協会(現・日本タイポグラフィ協会)の『日本レタリング年鑑 1969』をはじめ、 1960年代から90年代にかけて数々の業界団体の年鑑の発行も引き受けています。年鑑は専門家にとって貴重かつ信頼のおける情報源でした。これらの業界とのつながりからは、多くの企画が生まれました。
日本レタリング年鑑 1969
1969年
日本サイン・デザイン年鑑 1971
1971年
日本ネーミング年鑑
1995年
4:建築、イラストへの独自のアプローチ
1970年代以降は美術、建築、インテリア、イラストレーション、写真などにも分野を広げていきました。これらはいずれも各ジャンルの専門出版社が出すような王道的ラインナップとは違う、独自のアプローチにもとづいていました。建築のプランニングで用いられるパース画や、エアーブラシを用いたリアルイラスト、ファッションドローイングなど、従来テクニカル・イラストレーションとされていた分野の面白さに注目していったことは、その一例といえます。
インテリアデザイナー・建築家のための透視図表現とその技法
1972年
商業建築パース集 1 (内装編)
1974年
精密イラストレーションの世界 :テクニカルからスー パー・リアルまで
1982年
5:国際的視座に立った新ジャンルへの取り組み
70年代半ば以降、グラフィック社はドイツ・フランクフルトで開催される国際ブックフェアに参加・出展し、ドイツ・ベルザー社の美術史叢書『西洋美術全史』(1979−82)や、世界各国で翻訳されているスペインの技法書シリーズ「絵画教室シリーズ」(1980)など、国際的な市場動向を踏まえた出版物を展開していきました。この時期には『人間はどこから来たのか?』(1978)のような、ビジュアルな科学啓蒙書ジャンルにも挑戦しています。
西洋美術全史 第1巻 オリエント・エーゲ海美術
1979年
絵画教室シリーズ1 デッサン技法
1980年
人間はどこから来たのか? :宇宙の起源と生命のあゆみ
1978年
6:写真集と伝統文化の本
80年代には写真集分野がひとつのジャンルとして確立され、『ヨーロッパ古城物語』をはじめとする「物語」シリーズや日本庭園をテーマとした写真集など、独自の文化的なテーマによるラインナップを展開しました。
一木一草 :前田真三写真集
1983年
ヨーロッパ古城物語
1984年
イスファハン
1986年
また、日本の美術や伝統文化をテーマにした独自の企画は、今なお類書をもって変えがたい内容のものばかりです。これらの刊行物はしばしば大判本や豪華本という体裁をとり、装丁コンクールなどでも高く評価されました。
暖簾
1978年
こけしの世界
1983年
竹垣のデザイン
1988年
7:技法書の確立とホビー、サブカルチャー分野の拡大
90年代以降は従来の路線に加えて絵画・工芸の技法書が拡充し、グラフィック社の主要なラインナップのひとつとして確立していきました。その一方で、Macintoshの登場によるデザインのコンピュータ化を受け、デジタルデザインの参考書や資料集が注目を集めました。さらに、キャラクターイラストレーションや作画の技術にフォーカスした技法書を他社に先駆けて刊行。世界のマーケットにも展開していきました。
同書の英語版
8:ネット時代に本ならでは価値を追求する
90年代半ばをピークに日本の出版市場は縮小を続け、インターネットが新しい社会のインフラとなるなかで、本はあらためてその価値が問われることになりました。そんななかグラフィック社では従来の発想に囚われない個性的な本づくりに注力してきました。2007年に創刊された『デザインのひきだし』は紙や印刷の魅力を新しい世代に楽しく届け、多くの支持を得ました。また、既存の路線にはなかった趣味、実用書の分野を積極的に開拓したり、既存の分野を現代的な光を当てることにより、数々のベストセラー、ロングセラーが生まれています。さらにグローバル時代の利便性とこれまでの翻訳出版の経験を活かしたタイトルも注目されています。
デザインのひきだし : プロなら知っておきたいデザイン・印刷・紙・加工の実践情報誌
2007年〜
SPHERE : 不思議な球体ポップアップカード
2016年
肉サラダ : 1肉1野菜で作る!主役級!
2017年
とり : ちいさな手のひら事典
2018年
新幹線全車種コンプリートビジュアルガイド
2018年
サーカス = CIRCUS : ヒグチユウコ画集
2019年